夏休みのある日のことです。
娘が通う中学校の近くで、夏祭りが開かれることになりました。
「お祭り、楽しみだね」
娘は、仲の良い2人の友達と3人で行く約束をしていました。
「浴衣、着ていこうよ」
そんな話になったのは、お祭りの少し前のこと。娘は嬉しそうに私に伝えてくれました。
私は着付けができないので、おばあちゃんにお願いしないといけません。それなら早めに待ち合わせの時間と場所を決めておかないと——。
娘は何度も2人に聞いたそうです。
「いつにする?」
「どこで待ち合わせる?」
でも、いつも話を濁されてしまったそうです。
別のグループに
結局、待ち合わせの時間も場所も決まらないまま、お祭りの日が近づいてきました。
浴衣を着るかどうか以前にお祭りに行くかどうか、はっきりとした返事もない。
お祭りに行きたかった娘は、やはりお祭りに行こうとしていた別のグループの子たちに声をかけ、一緒に行かせてもらうことにしたそうです。
その子達は浴衣を着ていくという話はしていませんでした。娘は浴衣を着ることも諦め、まぜてもらう事にしたのでした。

そして当日。
お祭り会場に着いた娘が見たものは——
浴衣を着た、あの2人の姿でした。
2人は、娘に何も言わずに、2人だけで待ち合わせをして、浴衣を着て、一緒に来ていたのです。
会場で2人と出会ってしまった娘は、もうその場にいられませんでした。
早すぎる帰宅

お祭りが始まって、ようやく暗くなりかけたくらいの時間。人も集まり出して、さあこれからという頃でした。娘は早々に、1人で家に帰ってきました。
玄関を開けるなり、私の前で泣き崩れました。
声を上げて、号泣していました。
幼い頃はともかく、中学生になった娘が、あんなふうに嗚咽しながら泣くのを見たのは初めてでした。
何が起きたかは分かりませんでしたが、胸がギュッと締め付けられるようでした。
私は何も言えず…ただただ、娘の背中をさすることしかできませんでした。
今も残る、小さな引っかかり
あの2人の子たちのお母さんとは、子供同士が小学生の頃仲良くしていたこともあり、一緒にお茶をしたり、たわいもない話をしたりする仲でした。
だから、あの子たちが本当は優しい子だということも知っています。中学校では部活も一緒、登下校も一緒になり安心していたほどでした。お母さんたちのことも、嫌いではありません。
今、もし街でばったり会ったら、きっと笑顔で挨拶をして、立ち話をすることもできると思います。
でも——。
娘の号泣した姿が、今も私の脳裏に焼き付いています。
何か小さな、引っかかるものが、今もそこにあるのです。
それは消えることのない、小さな棘のようなものかもしれません。
中学2年生の夏。
あの夜の出来事は、私にとって、大きな傷として残りました。
お祭りの後、1学期の修業式までの数日間の登下校と部活で、娘はあの2人と一緒に過ごす日々が続きました。
2学期が始まってからも、ひと月ほどは学校へ通っていました。
朝の待ち合わせ場所がリビングの窓から見える場所だったので、私は心配でこっそり様子を見ていました。
娘と2人でもう1人が来るのを待っている時は会話もなく、微妙な距離をとって待っている。先に娘以外の2人が揃っている時は娘が近づいていっても合流を待つことなく先に歩き始め、2人で歩いていく様子が見えました。
子供同士の人間関係のトラブルは、誰もが一度は経験するもの。
とはいえ子供ならではの露骨な態度に心がえぐられる思いでした。
それでも3人で行くのかと、娘にも聞いてみましたが、少人数の部活で同級生はその子たちだけ。
登下校を別々にしたところで状況は変わらないから…ということでした。
娘があの日のことについて本当はどう感じていたのか、今現在、あの時のことをどう思っているのかはわかりません。なぜならあの日以降、娘とこのことについて話すことは一度もないからです。
それは少なくとも私にとって、傷口を開くような行為なのです。
娘がどんな思いで学校に通っていたのか。どれほど辛かったのか。
こうして娘の限界が近づいていきました。
